8月9日、「山の日」の休日、キャサリンと山に登る予定だった。

台風も去ったことだし、晴れるはず、と思っていたら、登山口手前のヤビツ峠(そこがバスの終点)に着いたときには本降りの雨だった。

普段なら、秦野駅北口のヤビツ峠行バス停には長蛇の列ができると聞いていたが、乗客はわずか。ヤビツ峠で下車したのは私たちのほか2人だった。この2人も明らかに登山客。高齢だが、終点の手前頃から手慣れた様子で雨具を用意し始め、登る気満々に見えた。

はて、私たちはどうするか…。

キャサリンと、「この雨では登れないから、このバスにそのまま乗ってもどるか」とも考えたが、運転士に聞くと折り返し運転はせず車庫に行くという。ともに下車した高齢の先輩諸姉に「登るんですか」と聞くと、この先にしゃれたカフェがあるからお茶して帰るか、大山に向かうかも、と言う。

私たちは丹沢の表尾根を塔の岳目指して登るつもりだった。道すがらの絶景が楽しみだったが、この天気では絶景は望むべくもない。でも、このまま帰るのももったいない。次のバスも当分来ない。

とりあえず、登山口まで歩いてみよう、とキャサリン。そこで無理そうだったら、ルートを大山に変更し、途中からケーブルカーで降りてもいいじゃん、と。

が、二人とも、おそらく心のどこかで、登山口まで行ったら、見るだけで帰る、とはならず、登るんだろうなと思っていたのだと思う。

案の定である。いざ登山口に着くと「行けるんじゃない?」ってことになり雨合羽姿の酔狂な二人組は山道に入っていったのであった。

木々の葉にさえぎられ、雨はそれほど気にならない。が、ときごき吹き付ける突風がすごかった。油断したら吹き飛ばされる、と思いつつ、慎重に進んでいった。道は一向にはかどらず。雲の中を歩き続けた。

ようやく三の塔に着いたときはもう11時。出発が遅かったのもあるが、この暴風雨の中、これから塔ノ岳を目指したら明るいうちには下山できそうにない。幸い、三の塔手前にエスケープルートを示す道標があった。

三の塔の休憩所でお弁当を食べて、下山することにする。塔の岳はまた今度。

エスケープルートを大倉山バス停に向けて、6.5キロ。単調な下り坂を延々歩く。それでも、山を歩くだけで楽しいので、あんまり苦にはならなかった。

丹沢はヤマビルが多いと言われているので、ヤマビルファイターを衣服にスプレーし注意していたが、キャサリンが2か所ヒルにやられていた。いつのまに!? 恐るべしヤマビル。次に来るのはヤマビルのいない秋から冬にしよう…。

6.5キロを降りきると、そこは整備された広い公園になっていた。塔ノ岳が源流だという水無川が流れていて、多くの子どもたちが水遊びに興じていた。地上は曇。雨は降っていない。ちょっと前まで暴風雨と雲の中にいたのが嘘みたい。

水無川を見下ろしながら、風の吊り橋という名のレトロモダンな橋を渡り、バス停に到着。16時前。塔ノ岳に行けなかったけど、よい判断だったのかも。

登頂だけが山の楽しみではない。無事これ名馬なり。山の中の雨音、風、木々のざわめき、鳥の声、虫の声。すべてが楽しかった。ああ満足。